社労士サトウオフィスブログ

労務管理や年金などに関する記事が中心ですが、プライベートな記述もあります

学生アルバイトについて

私は長年にわたって大学の講師を務めています。

教室やキャンパスのあちこちで学生らがアルバイトについて話しているのを折々耳にします。

身近にいる学生たちの話ですから、教師としても多少気になる時があります。

 

ちゃんと書面で契約を交わしているか?

残業代は正当に支払われているか?

仕事前後の準備・片付けは労働時間に算定されているか?

例えば、試用期間だからという理由で、最低賃金に満たない賃金を支払われていないか?

仕事上で負傷し、正当な権利があるにもかかわらず、労災申請を断られたことがないか?

 

学生自身が労働に関わる基礎的な知識・情報を収集できるなら、それに越したことはないとはいえ、そういった学生は多くないようです。

大学側の積極的な情報提供を期待したいところですが、そういった情報を入手できる適切な場が設けられているという話もあまり聞きません。少なくとも学年の開始時に希望者を集めて、アルバイトを開始する上での諸注意を与えられる場があってもよさそうなものですが、学生への種々の通知を見てもアルバイトに関連する情報は十分には与えられていないようです。

 

厚生労働省の「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査」(平成27年)によると約60%が「労働条件通知書」を渡されておらず、中には「給与明細」すら貰っていないケースもあるということです。働く上で、自分の会社の基本ルールを知らずに労働に従事するというのは危険すぎます。

 

以下、労働条件通知書に於いて確認すべき事柄を列挙しておきます。(「『働くこと』と『労働法』(令和4年度改訂版)p.25からの引用」)

雇用期間:いつからいつまでか

勤務地等:どこで働くか

業務内容:どんな仕事内容か

勤務時間:シフト等の時間は

休日休憩:何日か・何分か

給料計算:時給・月給・交通費等

支払時期:賃金の支払日は

退職解雇:辞める時の手続

育児・介護休業法の改正

育児・介護休業法の改正案が閣議決定されたというニュースがありました。

私が見たニュースの中で紹介された改正内容をもう少し詳しくここで説明したいと思います。

なお、改正内容の全体は他の場所で詳述するつもりです。

 

* 3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者の柔軟な働きかたを実現するため、以下の措置から2つ以上の制度を選択し講じなくてはなりません。

  • 始業時刻等の変更(フレックスタイム制、時差出勤)
  • テレワーク
  • 短時間勤務制度
  • 新たな休暇の付与
  • 保育施設の設置運営

「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーン

現在(4月~7月の期間)厚生労働省は「アルバイトの労働条件を確かめよう!」というキャンペーンを展開しています。

 

私は長年にわたって大学の講師を務めてきました。
教室やキャンパスのあちこちで学生らがアルバイトについて話しているのを耳にすることも珍しくはありません。
そういった折、社労士としてちょっと口を挟みたい気持ちを抱くこともあります。

ちゃんと書面で契約を交わしているか?
残業代は正当に支払われているか?
仕事前後の準備・片付けは労働時間に算定されているか?
例えば、試用期間だからという理由で、最低賃金に満たない賃金を支払われていないか?
仕事上で負傷し、正当な権利があるにも関わらず、労災申請を断られたことがないか?

けれども社労士という立場で大学にいるわけではないので、余計なことは口にしません。

 

が、やはり気にはなる。学生自身が労働に関わる基礎的な知識・情報を収集できるなら、それに越したことはないとはいえ、そういった学生は多くないでしょう。     大学側の積極的な情報提供を期待したいところですが、そういった情報を入手できる適切な場が設けられているという話もあまり聞きません。
学生への種々の通知を見てもアルバイトに関連する情報は十分には与えられていないようです。
せっかく標記のキャンペーンが行われているのですから、学生はこの機会を利用してほしいと思っています。
アルバイトに携わっている学生たちが正当な権利を享受できるよう、また将来仕事につくうえで必要な労働に関わる知識を、バイト経験から学び、身につけられるよう、大学は手を差し伸べるべきではないでしょうか。

賃金のデジタル払い(3)

賃金のデジタル通貨払い制度導入に関わる問題点

① 万が一の場合

当制度が導入された場合、どのように安全性が確保されるかという点は気になるところです。
厚労省リーフレットによると、例えば○○pay口座から労働者の同意なく不正にお金が引き出された場合、口座所有者に過失がなければ損失額全額が保証されるとしてあります。
また、○○pay業者が破綻したときには、その業者と保証委託契約等を結んだ保証機関から弁済が行われるとのことです。

② 事業主にとってのディメリット

(1) 当制度を運用するためには、労働者への説明と労働者からの同意が不可欠です。この「労働者への説明」は、制度がまだ世間に広まっていない段階では、事業主の人たちにとっては結構な負担になるかもしれません。ただし、説明については、指定資金移動業者に委託することも認められています。(労働者からの同意は事業主自身が得なくてはなりません)

(2) 就業規則を変更する必要があります。賃金に関わる事柄は必ず記載する必要がありますし、変更がある場合は就業規則の内容も変更しなくてはなりません。

(3) 負担が増える可能性があります。例えば労働者が銀行振り込みとデジタル通貨払いの両方を指定した場合、事務負担・経費負担(手数料)が増えることが考えられます。

 

書式

制度を運用するうえで必要となる様式例は厚生労働省のホームページで公開されています。興味をお持ちの方は参考になさってください。
資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
特に同意書の様式例は多言語翻訳版が掲載されています。外国人労働者を雇っておられる事業主の助けとなってくれると思われます。

賃金のデジタル払い(2)

賃金のデジタル通貨払いについてのトピックの続きです。今回はその制度を導入するにあたって注意すべきいくつかの点を記しておきたいと思います。

① デジタル払いの制度を導入したからと言ってこれまでの、これまでの賃金支払方法を止めることはできません。
原則的な方法である現金による支払、預貯金口座や証券総合口座への振込をデジタル払いに切り替えるといったことはできないのです。
つまり、労働者が希望しない場合、これまでと同様な方法で賃金を受け取ることができるということです。

 

② 逆に、労働者はデジタル払いを望んでいるが、事業主が当制度の導入を欲していないというケースもあり得ます。
その場合はデジタル払いの制度を導入する必要はありません。
通達(基発1128第3号 令和4年11月28日)では次のように述べられています。「労働者及び使用者の双方が希望する場合に限り、賃金の支払方法として、指定資金移動業者口座への資金移動によることを可能とする」

 

③ ○○pay口座(指定資金移動業者の口座)は、銀行口座などと違い、預金のための口座ではなく、買い物などでの支払いや送金に使うための口座です。
こういった目的の利用見込みなどを踏まえたうえで賃金振込額を決定しなくてはなりません。

 

④ ○○pay口座の上限額は100万円に設定されています。賃金の振込によって100万円を超えた場合は、労働者が前もって指定した銀行口座へ自動的に出金されるという仕組みになっています。

 

⑤ 賃金の一部を○○pay口座で受け取り、残りを銀行口座などで受け取るといった選択肢も認められています。

 

⑥ ATMや銀行口座などへの出金により、口座残高を現金化することも可能です。
少なくとも月1回は手数料なしで○○pay口座からの払い出しができることになっています。

賃金のデジタル払い(1)

賃金のデジタル通貨払いが開始されています。

デジタル通貨払いというのは、指定資金移動業者の口座への振り込みという形で賃金を支払うものです。「資金移動業者」はいわば法律的な呼称で、いわゆる〇〇pay業者のことです。「指定資金移動業者」は厚生労働省の審査を経て指定を受けた〇〇pay業者ということになります。

 

改正の目的

賃金のデジタル通貨払いの制度を導入する背景に関しては「昨今、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取りに活用するニーズも一定程度見られる」と通達(基発1128第3号 令和4年11月28日)で述べられています。
賃金の支払方法の選択肢を増やそうということですね。

私が教えている学生の中には、最近キャッシュレスで買い物などをすることが多く、現金はほとんど使わないと話している者もいます。
更に私の知人・友人(ほぼ中高年世代)でも〇〇payを利用している人はかなり多く、この類の業者を利用したキャッシュレス決済が広まっていることを実感します。そして私自身もそのひとり。
このような情勢にあって、一定数の人たちがデジタル通貨払いで賃金を受け取りたいと希望するのは自然なことのように思われます。

また、外国人労働者の場合、言葉の壁などがあって銀行口座の開設自体が難しいといった事情からデジタル払いを認めるべきだという意見もあるようです。
厚労省の審議会では「キャッシュレス化の促進や外国人労働者を含む多様な賃金払いのニーズへの対応という点で必要な施策」という意見も出されています。(第165回労働政策審議会労働条件分科会資料)
そして、その意見を反映すべく、制度紹介のリーフレットは日本語版だけでなく、英語・中国語・ベトナム語など13言語の翻訳版も公開されています。

 

上記リーフレットによると、当制度の今後の流れが以下のように説明されています。

①2023年4月~ 資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請、厚労省で審査(数か月を要する)
②各事業場で労使協定を締結
③個々の労働者への説明・労働者の同意のうえでデジタル払い開始