社労士サトウオフィスブログ

労務管理や年金などに関する記事が中心ですが、プライベートな記述もあります

標準報酬月額が9月分から変わるかも

9月になると、「手取りが減った?」という声が聞こえてくることがあります。
とくに社会保険料が変わることで、手取りが数千円ほど上下することもあり、従業員の方が訝しく思うこともあるようです。
実はこれは、社会保険の仕組みによって毎年決まっている恒例行事のようなものです。
本日は、できるだけ簡略になぜ9月に標準報酬月額が変わるのか、そしてどんな人が影響を受けるのかを解説します。

 

標準報酬月額とは何か

まずは基本から整理しましょう。

標準報酬月額とは、社会保険料を計算するための「目安の月収」のことです。
実際の給与額そのものではなく、総支給額(基本給・残業代・通勤手当など)を一定の幅ごとに区切った等級に当てはめて決められます。

たとえば、
・月収が18.5万円以上19.5万円未満の人は「等級○○
・月収が37万円以上39.5万円未満の人は「等級△△」
というように、細かい金額ではなく「幅」で扱う仕組みです。
この等級をもとに、健康保険料や厚生年金保険料が計算されます。
つまり、標準報酬月額が変わると、社会保険料も変わり、結果として手取りが増えたり減ったりするわけです。
当然標準報酬月額が上がると社会保険料も上がることになります。

 

なぜ9月に変わるのか

標準報酬月額は、毎年 4月・5月・6月の給与の平均をもとに見直されます。
企業は7月に「算定基礎届」という書類を提出し、それをもとに社会保険料の計算に使う等級が決まるのです。
そして、決定された新しい標準報酬月額は 9月分の保険料から適用されます。

 

標準報酬月額が変わる理由

「基本給は変わっていないのに、標準報酬月額が上がった」という相談はよくあります。 その理由は、4〜6月の給与に含まれるさまざまな要素が影響するためです。例えば・・・
4〜6月に残業が多かった
残業代も報酬に含まれるため、平均額が上がると等級が上がることがあります。
通勤手当の変更
交通費も報酬に含まれます。
4月は人事異動や通勤経路の変更が多いため、影響が出やすい時期です。
現物給与(社宅・食事補助など)
現物支給も報酬に含まれるため、企業によっては等級が変わることがあります

つまり、昇給がなくても、4〜6月の働き方や支給内容によって標準報酬月額が変わることがありうるのです。

 

標準報酬月額が上がると損?

たしかに、4〜6月に残業が多いと標準報酬月額が上がり、9月以降の保険料が増えることがあります。
その意味では「手取りが減る」という点だけを見るとと感じるかもしれません。

しかし、標準報酬月額が上がると、将来の年金や傷病手当金などの給付額も増える仕組みになっています。

つまり、短期的には手取りが減っても、長期的にはメリットがある場合も多いのです。
単純に「損」と断じるのは早計に過ぎると思われます。

高齢社会白書(2026年)

今回は内閣府が出している「高齢社会白書」をご紹介したいと思います。
白書はさまざまな側面から高齢化社会を分析していますが、私がここで取上げるのは社労士としての仕事に直接的に関連するごく一部です。
高齢者が増え、働く高齢者も増加しているということは、ニュースなどでなんとなくわかってはいることですが、統計値として具体的な数字を見るとその事実をより現実的に感じ取ることができるでしょう。。

 

興味のある方は白書自体を読んでいただければと思いますが、全体版はかなり長く詳細に記述されていますので、ここでは概要版のリンクを貼りつけておきます。
令和8年版高齢社会白書(概要版)(PDF版) - 内閣府

 

高齢化の状況(以下すべて2025年[令和7年]の統計値です)

・日本の総人口は12322万人
65歳以上人口は3,622万人
・総人口に占める65歳以上人口の割合は29.4
・「6574歳人口」は1,495万人、総人口に占める割合は12.1
・「75歳以上人口」は2,127万人、総人口に占める割合は17.3

※白書において高齢者の定義には一律したものがないと述べられています。因みに日本老年学会・日本老年医学会の報告書では、75歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されているということです。

 

65歳以上の就業者数及び就業率

6569歳の就業者数は392万人、就業率は54.5
(つまり半数以上の人が働いています)
7074歳の就業者数は284万人、就業率は36.2
13以上の人が働いています)
75歳以上の就業者数は266万人、就業率は12.6           

65歳以上の就業者数は22年連続で前年を上回っています。
※もはや高齢者の就労は例外的ではなく「普通のこと」になったといえるでしょう。日本老年学会・日本老年医学会の提案も宜(むべ)なるかなといったところです。
※企業は、安全配慮義務・労働時間管理などを含め、高齢者の活用をどう設計すべきかを真剣に考えなくてはならない時代に入っているといえます。

 

65歳以上の人への就労についてのアンケート(内閣府:高齢社会対策総合調査)

・「今後収入を伴う仕事をしたい・続けたいか」については日本では39%が「したい・続けたい」と回答
・他のアンケート対象国で「したい・続けたい」と回答したのは、アメリカ24.3%、ドイツ19.8%、スウェーデン19.1

最低賃金引上げ:2026年度の平均引上げ額は55円

7月28日、中央最低賃金審議会は今年度(2026年度)の地域別最低賃金の全国加重平均引上げ額(全国の最低賃金の平均的な引上げ額)を55円とする目安をまとめました。
昨年度の引上げ額が63円でしたので今回はそれを下回る結果となりました。
各地方の具体的な引上げ額は「地方最低賃金審査会」の審議によって決められていくことになります。

 

目安通りに改定されると引上げ率は4.9%、引き上げられる平均額は1,176円ということになります。 

 

最低賃金の決定において、各都道府県はその経済状況に応じてAランク(東京、大阪、横浜など)Bランク・Cランクと分けられています。
その各ランクごとの引上げ額は、Aランクが54円、BCランクが56円となっており、近年の地域間格差の改善傾向は継続しているようです。

 

中央最低賃金審議会は、最低賃金を上げていくためには、中小企業が無理なく賃上げを続けられる環境づくりが欠かせないとしています。
物価が安定して上がる中で、賃金も毎年1%ほど物価より高く上げていくことがノルム(社会通念)となるには、生産性を高める取り組みを続ける必要があるとしています。

そのため、できるだけ多くの企業が、業務改善助成金(事業場内で最も低い時間給を一定以上引き上げ、生産性向上に取り組んだ場合に支給)・キャリアアップ助成金・働き方改革推進支援助成金・人材確保等支援助成金などの助成金を活用して、賃上げにつなげられるよう、支援を強化すべきだと提言しています。

また、今年4月から始まった被扶養者の新しい認定方法についても、企業が混乱なく運用できるよう、円滑な実施を求めています。

2026年10月、パート・有期雇用のルール改正

今回の改正は「正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消を目指す『同一労働同一賃金』をさらに一歩進めるため」と説明されています。
改正事項の概要を簡略に説明いたします。

 

①労働条件の明示事項の追加
パートタイマーや有期雇用労働者を雇い入れた場合にも当然に労働条件を通知しなくてはなりません。
その明示事項に新たな事項が追加されることになりました。(以下の明示事項の赤文字で示されているのが追加されたものです)
○昇給の有無
○退職手当の有無
○賞与の有無
○相談窓口
待遇の相違等に関する説明を求めることができる旨

 

②「同一労働同一賃金ガイドライン」改正

裁判例などを踏まえ、賞与・退職手当・各種手当・福利厚生の記載が見直されることになります。
パートタイム・有期雇用労働者に対する処遇の改正で主要なものを以下に挙げておきます。

家族手当            相応に継続的な勤務が見込まれる場合、正社員と同一の手当を支給しなければならない
住宅手当              正社員と同一の転居を伴う配置がある場合、正社員と同一の手当を支給しなければならない
夏季冬期休暇      正社員と同一の夏期冬期休暇を付与しなければならない

 

③雇用管理の改善に関する措置内容の改正

パートタイム・有期雇用労働者に対し、正社員との待遇の相違等について説明する際には「資料を活用し、口頭により説明する方法」または「説明すべき事項をすべて記載したわかりやすい内容の資料を交付する等の方法」のいずれかの方法によらなくてはならないこととされました。

賃金の決定・正社員などへの転換制度に関する改正も併せて行われることになります。

 

以上①~③のより詳細な情報を入手したい方は厚生労働省発行の『パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)』をご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/content/001698010.pdf

カスタマーハラスメント防止措置

カスタマーハラスメントに関しては、先月下旬の二つの記事に加え、もうひとつ重要な情報をお届けしなくてはなりません。
それは2026年10月から事業主は「カスタマーハラスメントの防止のために講ずべき措置」が義務となるということです。

 

以下に羅列する措置内容は「職場におけるハラスメント~対策パンフレット」(厚生労働省発行)に記述されているものをそのまま写したものです。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf

表現はやや硬いのですが、法律用語が多用されているわけでもなく、読みやすいと思われます。
なお太字になっている部分は他のハラスメント(セクハラとかパワハラなど)に関する措置とは異なる内容のものだということです。

 

○事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
①カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する。
②カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する

 

○相談体制の整備
③相談窓口を予め定め、労働者に周知する
④相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする

 

○事後の迅速かつ適切な対応
⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑥被害者に対する配慮のための措置を行う
⑦再発防止に向けた措置を講ずる

 

○対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置
特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する

 

○そのほか併せて講ずべき措置
⑨相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する

⑩相談したこと等を理由として不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

 

②の「予め定めた対処の内容」の例をいくつか考えてみましょうか。
※①では労働者保護について言及されていますが、どういった対処をすべきかを前もって決めておく必要があるでしょう。できるだけ労働者一人だけで対応させることを避ける、必要に応じて管理監督者が対応する、犯罪に巻き込まれそうになった場合は即時警察に通報するなど。
※顧客とのやり取りを録音・録画すること。個人情報保護法との関連で、顧客の同意を得たうえで録画・録音するなどといった手順を定めておくと安心かも知れません。
※悪質な場合には、行為者に対し警告文を出したり、店舗・施設への出入りを禁止する

 

施行まであと数か月。
まずは「自社で想定される場面」を洗い出し、対応方針と手順を文書化するところから始めると、現場の安心感が大きく変わります。
カスタマーハラスメント対策は、働く人を守るだけでなく、結果的に顧客との健全な関係づくりにもつながります。

カスタマーハラスメント:社会通念上許容される範囲を超えたもの?

今年(2026年10月)施行されることになっているカスタマーハラスメント対策の義務化についてのお話の続きです。

 

前回はカスタマーハラスメントを構成する3つの要素を取り上げ、そのうち①の「顧客等」とは何かをご説明しました。
①顧客等の言動であって
②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されるもの

 

今日は②の「社会通念上許容される範囲を超えたもの」についてです。
厚生労働省はこれにつき2つの判断基準を示していますので、ご紹介しておきます。

言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
・そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
・契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
・対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
・不当な損害賠償要求

手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
・身体的な攻撃(暴行・障害等)
・精神的な攻撃(脅迫・中傷・名誉棄損・侮辱・暴言・土下座の教養等)
・威圧的な言動
・継続的、執拗な言動
・拘束的な言動(不退去・居座り・監禁)

 

「なるほど」と頷きたくなるような要求・手段・態様が並べられていますが、実際にハラスメントらしきものに遭遇した時それが許容範囲を超えているか否かを判断するのはそれほど簡単ではないこともありえます。
例えばある者が企業へ嫌がらせの電話をかけた場合、どれくらいの期間電話を続ければ「継続的」と言えるのか、何度電話すれば「執拗」と言えるのかを判断するのは容易ではないときもあるでしょう。

 

厚生労働省のパンフレットでは、この判断を下すにあたって「様々な要素(例えば、業務の内容・性質、行為者との関係性など)を総合的に考慮」するよう求めていますが、要素のひとつとして挙げられている「当該言動を受けた労働者の問題行動の有無…」といった表現を考えるとハラスメントを断定できる根拠が少なからず曖昧さを孕んでいることが分かります。
当該言動を受けた労働者、すなわちハラスメントを受けた労働者側もハラスメントを引き起したそれなりの責任を持たなくてはならない場合もありうるということなのですから。

 

様々な要素を総合的に考慮」するという文言自体かなり曖昧と言える気がしますが、私はそういった曖昧さを批判しようとしているわけではありません。
ある行為をハラスメントと認定することは必ずしも容易ではないことを事業主さん達は意識しておくべきだろうということです。

 

まとめ:
カスタマーハラスメントの判断には、どうしても一定の曖昧さが残ります。 だからこそ事業主は、「曖昧だから判断できない」と立ち止まるのではなく、日頃から基準づくりや相談体制の整備を進めておくことが重要になります。 今年の義務化を機に、職場としてどこまでを許容し、どこからを許容しないのかを明確にし、労働者が安心して相談できる環境を整えることが求められていると言えるでしょう。

令和8年熊本地震

カスタマーハラスメントについての記事の続きを今日書こうと思っていましたが、熊本がたいへん大きな地震に見舞われてしまいました。

被害にあってこの暑さの中苦しんでおられる方々を思うとつらい気持ちになります。

そしてこの度の地震によりお亡くなりになられた方々に、謹んで哀悼の意を表します。